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【Web連載】


認知症とともに、よりよく生きる   7

〜お医者さんとのつきあい〜


水谷佳子


「ずいぶん日に焼けましたね!」「いやぁ、女房と毎日畑に出てるもんで真っ黒ですよ」「こちらの椅子、空いてますよ」挨拶を交わしながらテーブルを囲む人たちに共通するのは、認知症・軽度認知障害と診断されていることだけ。診断された時期も、通院している医療機関も人それぞれです。

* * * * *

 雅代さん:
    私は、この集まり(注)には何度か参加しているんですけど
    別のクリニックに通ってるんですね。
    それで、今日は皆さんにお伺いしたいことがあるんです。
    ちょっと聞いて下さい。

    東京都が出している、
    自分でできる認知症チェックみたいなの、あるでしょう?
    あれをやってみたんだけど、クリアするのね。
    似たようなのをいくつかやっても、全部クリアしていくわけ。
    でも、認知症の始まりかどうかっていう境目って、
    これじゃ、判断できないだろうって思ったの。
    かかりつけの内科の先生に聞いてみたら
    「雅代さんはまだ、大丈夫ですよ。
    予約の日を間違えることがあっても、
    雅代さんの場合、ああそうだったかしら、ってなるでしょう?
    自分は聞いてなかったと取り繕ったり
    自分の非を認めなくなったら、認知症ですから」
    って仰るのね。

    私、何だか納得できなくて
    認知症センターみたいなところに行って
    脳の画像も撮ってもらって、結果的に、
    軽度認知障害っていう部分にあてはまるって分かったんですね。

    そのときに
    「来年も、脳の断面図を撮ってもらえますか?」
    と聞いたら、「もう撮らないでいいです」って言われて。
    でも、機能の検査にしても、脳の画像にしても
    もともとの得手不得手とか、もともとの脳の形ってあるわけでしょう?
    だから私、「今と1年後を比較してみたいんです」って言ったら
    希望すれば撮りますよ、って。
    もう少しで1年経つので、撮ろうと思ってるところなんですけど……
    水谷さんの意見を聞きたくって。

わたし:
    画像で変化を見たいって、
    すっごく自然な気持ちだと思います。
    私自身、そう考えると思います。
    雅代さんが言われるように、
    もともとの形が分からないと変化も分からないですもん。
    変な例えですけど、私は背が低いでしょ。
    現時点の私の身長だけを測って、
    「一般的な平均身長と比べてかなり小さいですね。萎縮してます」
    って言われたら
    「いえ、私、高校の頃からずっと同じです」
    って言えるけど、脳の形ってもともとを知らないから……
    最初に撮った自分の脳の画像と、比較したいかなぁ。

雅代さん:
    そうですか、よかった〜
    何度も画像を撮るのは良くないのかと不安になっちゃって。

    私ね、診断されたことによって
    日常生活の中で、意識するようになったんです。
    意識するとね、前よりも、
    ごく普通に乗り越えていける一面もあるんです。
    例えば、両手に物を持っていたとして
    それまでは何気なくそれを置くから、
    どこに置いたか分からなくなってた。
    でも、右手のこれは玄関に、
    左手のこれは台所に、って言いながら行動すると
    私の場合、間違えにくくなるんです。
    そんな風にカバーしながら、この1年、やってきました。
    私なりに科学者のように研究してきたと思ってるんです。

    1年経ってみて、脳の画像を撮って変化を知りたいし、
    自分研究のこともお医者さんに伝えて、
    お医者さんの意見を聞きたいって思ってるんです。

    それでね、皆さんにお聞きしたいのは
    診断を受けたお医者さん以外の
    ほかのお医者さんに相談したり
    別の病院を受診する、病院を替えるってことを
    考えたことある方、いらっしゃるかしら?

    先生の見立てが悪いっていうんじゃなくて、
    何でもそうだけど、やっぱり
    相談相手は一人より、ふたりの方がいいなって……
    別のお医者さんの話も聞きたいって思うのね。

静香さん:
    私はたまたま、
    「こういうところ(のぞみメモリークリニック)があるんだけど、
    診てもらうことを必要としますか?」って言われて……
    何のトラブルも起きてないけど、年齢的に
    そういうのを受けてみる必要があるのかなって受診したんです。

    結果的に、こうしてここにいますけど、
    診断はあまり気にしてないです。
    こうして皆さんとお会いできる機会ができたし
    別のところとは考えないですね。

貴志さん:
    私は都内の別のクリニックに行っています。
    最初から、そこだけですね。
    柔軟性のある考え方の先生で、
    いいこともいっぱい言ってくれる先生なんです。
    褒めてくれる……
    なかなかそういう先生っていらっしゃらないんですよね。

倫人さん:
    そうそう、そうなんですよね。
    初めて(その先生に)お会いした時には
    どういう方か分からなかったんですけど……
    評判はいいって聞いてました。
    直接お話をするようになって、
    自分でも「なるほど」と思えるお話をして下さるんです。

わたし:
    倫人さんも、主治医の先生は貴志さんと同じなんですよね。
    倫人さんの場合は、
    ここ(のぞみメモリークリニック)の先生ともお話されていますが
    ふたりの先生とのおつき合いってどうですか?

倫人さん:
    最初からそうしようと思っていたわけじゃなくて
    たまたま、そういう形になったんです。
    ここの先生とも、月に一度は話しています。
    地元にも、認知症のことやこれからのことを話せる人、
    そういう場所ができて良かったですよ。
    おふたりとも、信頼しています。

夏実さん:
    私も、かかっている病院は別です。
    5年くらい前に診断されて、
    今も同じ病院にかかっているんですけど……
    先生とのやりとりって難しいですね。

    この5年で思ったのは
    先生に聞きたいことがあったら
    自分からどんどん質問していかないといけないってこと。
    先生の言うなりに、ありがとうございますと帰ってくるのではなくて
    分からないことがあったら自分から言った方がいいなって。

    どういう生活をした方がいいとか
    どういう薬を、どういう飲み方したらいいとか
    聞きたいこと、知りたいことは具体的に聞く。
    一般論だけ話されても、自分の生活に結びつかないんです。

    先生に話が通じない、応えてもらえないって感じて、
    ちょっと喧嘩みたいになっちゃったこともありますけど
    めげずに話をする。
    私はこう思います、ということを伝える。
    そういう風にしています。

わたし:
    先生とも、つきあい続けていくっていうか
    関係をつくっていくっていうか……

夏実さん:
    そうなんです。
    先生と、どうつきあうか。
    この病気になって、すごく大事だと思うようになりました。
    自分に向けたアドバイスをいただくには、
    自分がどう考え、
    どういう姿勢でこの病気に向きあっているかを
    先生に理解していただかなくては始まらないって気づいたんです。
    とっつきづらいとか、分かってもらえないと思うこともあるけど
    お医者さんだって人間なんだからって考えて
    辛抱強くやりとりを続けていく、つきあい続けているうちに、
    先生が私に向き合う姿勢も、変化してきたのかなぁとか……
    あ、ちょっと分かってもらえたかなとか……感じることも出てきました。

わたし:
    幸吉さんは、認知症に関してはここのクリニックですけど
    もともと別のことで、複数の病院を受診されてるし
    色んな病院の色んな先生とのつき合いが長いですよね。

幸吉さん:
    僕は、聞きたいことはどんなことでも聞いてますよ。
    この近辺でも数箇所、かかってるし
    大学病院にも行ってるし、
    もう、何年もかかってる先生ばかりだよ。

    病気って、自分自身で乗りこえていくものかなって
    僕は考えてるんだよね。
    自分にもっともっと自信をもって、
    何事にも当たった方がいいかなって思うんですよ。
    だから、先生にも聞きたいことは聞く。
    先生の話に納得いかないことがあれば
    ハッキリ伝える、直接ね。
    認知症じゃなくても、ほかのことでもね。

    ああだこうだと、自分も言うけど
    先生の話を聞くと、なるほどと思える。
    自分のためになっていると実感できる。
    自分自身が納得できる。
    それがあるから、信頼できる……ですよね。

雅代さん:
    そうですねぇ。
    私がなぜ、皆さんにお尋ねしたかっていうとね、
    たとえば、私の状況次第では、
    薬が増量されたり変更されたりする可能性があるわけですよね。
    そうなった時、色々聞きたいこともあるし
    自分のこれからを話し合いたい、対話したいんです。
    でも、この1年のおつきあい、診察の様子をふり返ると……
    先生はいつも診察は笑顔で応対されるけど
    こちらからの問いかけに直接応えて下さらない。
    スルーされるんです。
    彼女みたいに喧嘩ができればまだいいけども。

夏実さん:
(苦笑)

雅代さん:
    風邪ひいたり、捻挫したりってわりと多いでしょ。
    だから、内科とか整形外科って、
    今まで色んな先生にかかるチャンスがあってね。
    自分と相性がいい先生に巡り合えたり
    この先生がいいって分かるものだけど
    認知症の先生には、突然出会うわけですよね。
    かかりつけの先生とは違って、
    自分の今までのことも、生活のことも、ご存知ないわけで……
    これからの自分の人生ずっと……と思うと……ね。

    何人もの先生に出会う中で
    ああ、この先生となら話ができる。
    これから私がすごく悪くなっていった時にも、一生涯を託せる。
    そう思える先生とやっていけたら……
    そう思える先生との出会いの機会ってあるのかなぁ……
    そういうところで迷ってます。

* * * * *
「一生涯を託す」この言葉の重みを考えた。たまたま出会った人と、自分のこれからの人生をつくっていく……よりも、色々な出会いの中から、「この人と、つきあっていきたい」「この人と、やっていきたい」と考えるのは当たり前だ。ある意味、人生のパートナーだもの。

けれど、出会いは突然だ。人によっては思いもかけない「診断」とともにやってくる。否が応でも、やってくる。赤い糸で結ばれたパートナーに出会えればラッキーだけど、なかなかそうはいかないだろう。夏実さんのように、診察の時間を重ねる中で、「人と人」のやりとり、つきあいを紡いでいく。幸吉さんのように、人生の主体者である自分が、医師という専門家にとことん尋ねる、とことん伝える。そうやって関わり合いながら、人の数だけ、それぞれのパートナーが、つくられていくのかもしれない。

(注)
のぞみメモリークリニック(東京都三鷹市)で月に一度、不定期に開催する「くらしの研究会」。その日その時に参加したい人たちが集まり、誰とはなしに話したいこと、聞きたいことが主題となって場がつくられていく。


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*水谷佳子(みずたに・よしこ)さんは、
 のぞみメモリークリニック(東京都三鷹市)の看護師。
 1969年東京都北区生まれ、コンピュータプログラマー、トレーラードライバーなどを経て、2005年に医療法人社団こだま会こだまクリニック入職、2012年からNPO法人認知症当事者の会事務局、2015年にのぞみメモリークリニックに入職されました。
 認知症がある人・ない人がともに「認知症の生きづらさと工夫」を知り、認知症と、どう生きていくかを話し合う「くらしの教室」を開催。「認知症当事者の意見発信の支援」を通じて、「認知症とともに、よりよく生きる」人たちの日々を講演等で伝えながら、「3つの会@web(http://www.3tsu.jp/)」という認知症の人が情報交換出来るウェブサイトの管理運営の支援もされています。

 以下は、このweb連載をはじめるにあたっての、水谷さんからのメッセージです。

認知症に関連する仕事をするようになって、
認知症の生きづらさ、認知症をとりまく様々なこと、
認知症とともに生きることを考えるようになりました。
答えのない問いや悩みの中で希望を探すうち
「認知症を考えることは、自分の生き方を考えることだ」と
思うようになりました。
認知症をきっかけに、「よりよく生きる」ことを一緒に考えていきませんか?


【連載は隔月に1度、偶数月中旬の更新を予定しています】