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【Web連載】


加えたこと・1:『生の技法』広告続 連載:予告&補遺・13

立岩 真也  (2013/05/27)
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広がり

  この本は初版が1990年、第2版(増補改訂版)が1995年、第2版から今度の第3版(2012年)までのあいだでも17年という時間が経っている。その間のことを書こうと思ったらそれだけで一冊になる。書ければそれでもよいのだが、私は、その間のことをきちんと終えていないから、書けない。しかしないよりはよいと思って2つの章を加えさせてもらった。いずれも私の担当ということになる。
  第10章「多様で複雑でもあるが基本は単純であること」。1 その後書かれたもの知ったこと/2 むろん身体障害に限ったことでないこと/3 様々な暮らし/4 批判してきた側が同じことを言うこと/5 政策:所得/労働/6 政策:社会サービス/7 市民の常識を相手にせねばならない、が/8 分権はよい、と決まってなどいない/9 資格はとくに必要な時以外いらない/10 明るくなれない、としても/11 記録し・考えること。
  章を少し加えたところで、また一人では、書けないし、経緯を追いかけてこなかった私ではさらに書けないところをがあると今述べた。ただこのかん、様々な本が出された。それを読んでくれたらよい。そこでまず、いろいろと抜けているものもあるのではあるが(ほとんど他意はありません)、そうした本をいくらかまとめて紹介して、私には書けないところを知ってもらもうと思った。
  人の暮らし方にしても、また組織のあり方にしても多様になってきた、あるいは最初から多様であってきた。「幅」には留意してきたつもりだが、それでも私(たち)が取り上げてきた部分が一部であることはいなめない。ここには書かれていないことが書かれた様々な本を紹介している。それは研究者によるものもあるし、本人たちによるのものもある。後者で、私がいちぶに関わらせてもらったものでも、『否定されるいのちからの問い――脳性マヒ者として生きて 横田弘対談集』(2004)、『母よ!殺すな 新版』(2007)、『足文字は叫ぶ!――全身性障害のいのちの保障を』(2009)とある。読んでもらってなにを思ってもらっても(さしあたり)かまわないが、読んでもらわないことには困る。たぶんもっと知られていない本もある。それで列挙した。こういう文献リストみたいなものはときどき必要だと思う。それで最初にそれを置いた。
  そして、私たちの本に出てくるのは、じっさいには、基本的には身体障害、それもわりあい重めの身体障害の人たち、とくに脳性まひの人が多かったする。しかし身体障害といっても様々だし、脳性まひの人が重いというのとALSの人が重いというのとまた違うところもある。また軽いということになっている人にしてもそれはそれで苦労があったりする。そして精神障害知的障害の人たちの運動がこの本に書かれている時期と重なったり、またすこし後になったりして続くことになる。それらについてもわずかだがいくつか「文献」をあげてある。
  「福祉」とか「障害者福祉」とかを勉強しよう(せねばならない)という人たちにはそれだけの情報であってもあった方がよいと思って、+自分(たち)では無理だというその部分を補ってもらうべくこの章の1「その後書かれたもの知ったこと」、2「むろん身体障害に限ったことでないこと」、3「様々な暮らし」を書いた。
  組織形態の多様性は制度の変化にも対応している。このことはその後に書いてある。そして私たちは、やはりこの本におもに書かれている、親元から出ていく世代だけを考えることはない。配偶者がいなくなったり、子どもが出ていったりする人もいるし、様々いる。いま「地域移行支援」というのが制度のメニューにあるようになっているようだが、かりにこういう制度の区分けを認めるとして、それにはこうした人たちが入っていてすこしもおかしくない。ことは絵に描いたような「自立生活者」だけのことではないということである。後に続く文章はそんなことも想定しながらのものになっている。

「突出」のこと

  ただ現実はいつも多様であるとして、たくさんの人がいるとして、(その当時、そこそこに)若い家出人がぼつぼつ、わずかに出てきたのだということ、そしてその人たちを含むやはり数多くはない人たちが作ってきたものがあるのだということも一方の現実である。それはそれで押さえておく必要がある。と同時に、そうして作られてきたものの上に乗って、例えば、私の務め方の近所で一人暮らしをしている60をそこそこに越えたALSの単身者の生活も可能になっている。
  私たちは少数者たちの「突出」した行ないを――なんでも、というわけではないが――肯定する。そのことによって現実がわずかずつでも動いたし、それ以前に、言ってよいのだと、生きてよいのだと思わせた。だからこの本を書いた。ただ、みながみな突出せねばならないわけではない。それは疲れる。気性として合わない人もいる。ただ、無謀であること、乱暴であることがどうにもならないように見える現実を変えることにつながることはある。「社会福祉の前身」は「善意の地道な堆積」なんか(だけ)ではないのだ。それは知ったほうがよい。でないと「社会理解」だとかなんとか言って――もちろん理解されないより理解されたほうがよいのではあるが、そういうことではなく――結局卑屈になったり動けなくなったりする。そんなように生きることはないのだと、私たちは教えられたのである。
  そしてその私たちは、その余計な苦労をしなければならなかった「先駆者」たちの苦労のおかげで、その分自分たち自身で面倒な努力をしなければならない分が減ったことでたすかっている。もう亡くなられた方もいる。高橋修さん(1948〜1999)もその一人だ。さきに著書の書名『足文字は叫ぶ!――全身性障害のいのちの保障を』(2009)だけあげた新田勲さん(1940〜)も本年1月2日に逝かれた(その「遺作」が『愛雪――ある全身性重度障害者のいのちの物語』――私のところでたくさんあずかっています)。だからその感謝はもう届かない。けれど、だからしかたなく、すくなくとも、その人たちのことを文字に留めておくことはできる。そのことをもって感謝・敬意を、いつのころからか普通に使われる言葉になったカタカナでは「リスペクト」を(この世にいない人たちもいるのだから、誰に対してかよくわからないのだが)表わすことができる。それだけのことなら、まず、できる。それは、まずは、「ただ」である。私たちは「ただ乗り」をしている「フリーライダー」なのだが、せめて、ただで謝意を表わすことはできるのだ。ちかごろ乙武洋匡さんが入ろうとした店に入れなかったので文句を言ったことについて、「なにを言っているの」、と私には思えることを言っている人もいるようだから、ではなく※、このことは書いておこうと思っていたから、書いておく。
  ※まったく何も知らないままこの本の解説を書いてくださっている大野更紗さんからツィートが来て、それへの返信を2つ書いてます(2013/05/19)。
  →https://twitter.com/wsary/status/335985542808350720

その上で、とはいえ

  とはいえ、あるいは勝ち取ってきたものがあったからこそ、なかなか――なんにもなかったころのしんどさとはまたすこし違った感じの――しんどさが感じられるようになる。それはこの本の第2版が出た頃、あるいはその少し後からのことだったと思う。そのことを含めて、そしてただしんどいと嘆いてもはじまらないわけで、そこのとこをどう考えるか。こんどの第10章の後半は、ではどういう方向に向かうのがよいのか、どういう方角はまちがっている(と私は考える)のかについて書いた。そして第11章は、そのしんどいできことの一部についての紹介・検討になっている。次回に解説するつもりだが、第11章の目次細目は以下。   第11章「共助・対・障害者――前世紀末からの約十五年」:1 復習:三つの制度を拡大させてきた/2 情報が制度を拡大させた/3 介護保険前 一九九〇年代後半/4 介護保険の利用者にはならなった 二〇〇〇年四月/5 事業者にはなっておくことにした/6 「上限問題」 二〇〇三年一月/7 支援費制度 二〇〇三年四月/8 介護保険との統合案 二〇〇三年九月/9 障害者自立支援法 二〇〇六年四月/10 「政権交代」後 二〇〇九年九月〜/11 疲れてしまった、のであるが

 
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『介助者たちは、どう生きていくのか』表紙    『知的障害者が入所施設ではなく地域で生きていくための本』』表紙    『介助現場の社会学』表紙