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【Web連載】


『私的所有論 第2版』広告予告+『国家と所有のゆくえ』少し 連載:予告&補遺・14

立岩 真也  (2013/05/27)
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『私的所有論 第2版』広告予告

 『生の技法 第3版』について、の続きのはずで、新たに加えた、「近年」のことについて加えた部分を、ということだったが、パス。 さらに、その本にもすこし出てくる横田弘さんがこの6月3日になくなってしまった。そして、その第3版が出てからこれまで、新田勲さんが1月3日に亡くなった。横田さんは、また新田さんは、というようなことについても書くべきだと思うが、これもあとで(あるいは『そよ風のように街に出よう』でさせてもらっている「連載」で書かせていただくかもしれない)。
 そして、話突然変わって、1997年に初版が出た『私的所有論』の第2版を、文庫版で、『生の技法 第3刷』に続き、出してもらった。6000円+税、だったのが、1800円+税になった。補章を2つ加え、注と文献をすこし足した。そういうこと、どこがどうなって「第2版」なのかはこの本で説明してあって、その一部を上記のページに掲載しているので、ご覧ください。
  解説を書いてくれている稲葉振一郎さん(1963〜)は学部のときは一橋大学の学生だった。『生の技法』のための調査をしていたときの調査地は国分寺・国立・立川そして八王子といったあたりで――だいたいその手引きをしてくれた安積遊歩(純子)(1956〜)が国立在住だったし、あのあたりに近辺の大学生のボランティアをあてにしつつ住んでいる人たちがかなりいた。安積さんのアパートに一橋の学生がけっこう出入りしていて、じつは稲葉さんの知り合いという人がいたりもしたのだった。ついでに、私の同業者(社会学)だと、やはり加藤秀一さん(1963〜)が一橋で、やはり介助をやっていた(ことを、たぶん、後で知った。)
  ちなみに稲葉、加藤、そして市野川容孝(1964〜)は、高校かそのあたりがいっしょで、なんだか気持ちわるいのだが――そして私と市野川さんは同じ東京大学・大学院ということなるのだが、加藤さんも大学院からは同じで、さらに稲葉さんは同じ大学の経済学のほうに移った。その市野川氏はながいこと、すくなくともかなり最近まで、某氏の介助をボランティアでやっていた。今でもやってるかもしれない。というわけで、彼は基本的には「無償派」なのであって、そしてまた斉藤龍一郎さん(1955〜)が市野川と同じ人の介助をやはりボランティアでやっていて、『生の技法』の初版が出たとき、私と斉藤さんとは直接には互いを知らなかったのだが、「こういう割り切り方」でいいの、といった感じの感想をメールで送ってくれた。その有償/無償という主題は、『差異と平等――障害とケア/有償と無償』堀田義太郎との共著、青土社、2012)という本に引き継がれることになった。そして斉藤さんはアフリカ日本協議会というNGOの事務局長をやがてつとめることになり、そしてずいぶん前から、こちらのアフリカ関係の膨大なページの作成をしてくれていて、今年度からほぼ名前だけの役を引き受けてくれてこちらの「センター」の活動を手伝っていただいている。といったしりとりのような話を書いているといつまでたっても進まない。ただ、全体からしたらどれだけ?、ということではあるだろうが、そんな人たちが大学生としていて、いつのまにか「研究者」になったりといったことがあってきたことは、すこし知られておいてよいことではあるように思う。京都方面では、その共著本の著者の堀田氏(1974〜)がそんなことをしていたし、もうすこし前では、山森亮さん(1970〜)なんかも関係していたのではなかろうかと思う。
  そして、この人たち、そしてすこし上の人だと小松美彦(1955〜)さん等々は、たいがい、「研究」とかで知りあった人ではない。小松さんなら「学生運動」関係かつ河合塾で同僚?ということであったし、河合塾つながりということでいえば稲葉さんもそうだった。(市野川・加藤とは、太田省一(1960〜)と、いちおう大学院の時にBS(Bio-Sociology)研究会といったものをやってはいた。優生学史関係の英語の論文やら読んでいた。)私が稲葉さんについて、そのころのことで唯一覚えているのは、河合塾で私は講師や模試の問題作りやなんでもやっていたのだが、その一つの仕事でフェローという科目別なんでも相談という職をやっていて――科目は、笑われるのだが、「現代国語」だった――それをやっている部屋に、同じ校舎で働いていた彼がふらっとやってきて、記憶がまちがってなければ、イアン・ハッキングの本――『偶然を飼いならす』として訳書が1999年に出た本だと思っているのだが、とすると原著は1990年――の本がおもしろいといったことを語って、そうですかといったような話をすこしして、ふらっとまた帰っていったことを覚えている。
  そして、1997年に『私的所有論』の初版が出た時、本が書店に出る前に最初に書評というか感想というか書いてくれたのが稲葉さんだった。それからいろいろな人が書いてくれて、その一覧は「(『私的所有論』への)言及」にあってそこからたいだい読めるようになっているのだが、稲葉さんのもそこから読んでいただける。それと今回書いてもらった解説の間に、稲葉さんにどのような変化・発展があったのか、なにか考えてみて書かせてもらうことがあるかもしれない。

『所有と国家のゆくえ』のこと

  その間、16年という時間がたったことになるのだが、そのちょうど真ん中あたりに、その稲葉さんから話があって、対談を4回(うち3回は東京都内の書店での公開の対談だった)をやって、それが2006年に『所有と国家のゆくえ』という題でNHKブックスの一冊として出版された。私としては、博識でいろんなところに話がいく稲葉さんの話を受けて、とはいえ結局は日頃考えていることを繰り返して話したということなのだが、話をさせてもらった。だからだいたいのことは他の本でも言っている。けれど微妙な話の相互のもっていき方の違いをみていこうという人はそれもできるし、あんまりそういうことは考えず――対談というのは意外と読みにくいものだと私はときどき思うことがある――ところところ拾い読みしていただければよいのかなと思う。
  その中で、一つ、『私的所有論』では当然の前提にはなっているが、明示的には書いてはいないことを、ばかみたいに単純なことなのだが、一つ。

  「立岩 […]ナゾナゾみたいなものだよね、経済学が、市場というのはみんな得する世界なんだから、得するか、得も損もしないのどちらかだから、それを続けていれば、みんなハッピーになってっていう話をする。今よりはよいことがあるから取引するっていう話は、なるほどそうかな、と。したくなかったら、何もしないでさぼってればいいんだから。すると、だんだんよくなるって話が一瞬本当に思える。でも、実際にはそうじゃない。小学生向けのナゾナゾのような気もするし、もうちょっと高級なような気もする。そのナゾナゾにどう答えるかですよね。ぼくの答えもあることはあるんですが、稲葉さんの答えはどういうものなんですか。」(pp.86-87)

  で、稲葉さんは応えている。それは後で紹介する「現物」を見てください。私はそのあと次のようなことを言っている。

  「立岩 その話の続きはだいたいわかって、そういうことがあるのはわかるんだけど、もうちょっとマイクロなふつうのレベルで考えてもいいと思うんですよ。つまり、人間が生きている世界の中で、パレート改善ならうまくいくじゃないかというのは、それは明らかに現実に反していると稲葉さんが考えているのか、そうじゃないのかそれはわからないけれど、ぼくは明らかに現実に反していると思っています。
  ぼくは基本的に頭が単純な人間なので、単純に言います。人間生きていくわけじゃないですか。生きていくってことは消費してるってことですよね。だんだん得していくって話は、人間が時間の中にいて、消費して、すでにあるものを減らしながら生きている、というものすごい単純な現実を場合によっては忘れてる可能性があります。実際には差引でマイナスになることがあります。というか、ゼロを下回った時点で人間は死にます。時間の中に人間は生きており、消費しながら生きていく人間である、という誰でも知っているような当たり前のことです。それが一つ。」(p.90)

  この本、今年になって出版社品切れ、増刷もうなしということで、ならば著作権者である著者がそのデータの扱いは自由であろうということで、テキストファイルを販売してみることにした。テキストファイルは、たしかにそっけないのではあるが、意外とよいものですよ、と私は思う。もともと一本道の筋のある本というわけでもないから、適当に飛ばしたり、適当な単語で検索してみたりしてもよいと思う。紙本での頁番号もわかるように工夫してみた。
 そして支払いの方がネックだったのだが、ガムロード(gumroad)という便利なものがあるのを青木千帆子さんに教えていただき、それを使うことにした。そうやってこちらで販売可能なものを一覧にしてひとつのページにまとめて、ときどきツィッターとかでお知らせしてみている。ただ、残念ながら、今のところ、ほとんどまったく売れない。どうしてか。どうしたものか。考えてみます。ただ一度、ファイルを読むためのソフトをダウンロードすれば、また支払いのためのクレジットカード情報を登録すれば――ということはカードがない人にはえらく不便だということなのだが→その場合に私にじかにメールをください――後は楽です。こちらもこれからいろいろと工夫してみようと思っています。


 
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■生活書院の本×3

◆田島 明子 2013/03/29 『日本における作業療法の現代史――対象者の「存在を肯定する」作業療法学の構築に向けて』,生活書院,272p.  ISBN-10: 4865000097 ISBN-13: 9784865000092 3000+ [amazon][kinokuniya] ※

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◆安積 純子・尾中 文哉・岡原 正幸・立岩 真也 2012/12/25 『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学 第3版』,生活書院・文庫版,666p. ISBN-10: 486500002X ISBN-13: 978-4865000023 1200+ [amazon][kinokuniya]

『日本における作業療法の現代史』表紙    『私的所有論  第2版』表紙    『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学 第3版』表紙